[記号の由来]トランプのスート

私たちが普段なんとなく意味を理解して使っている、いろいろな記号。その、そもそもの由来を備忘録的にまとめていきます。今回の記号は「トランプのスート」です。

トランプのスートの変遷

トランプに描かれているお馴染みのマーク、スペード・クラブ・ダイヤ・ハート。これらのマークことを「スート(suit)」と呼びます。

よく見るトランプはフランス式

日本でトランプといえば上述の4種類のスートのものです。このスート、じつは正確にいうと「フランス式」になります。他の種類はというと、タロットカードの中の「小アルカナ」というカード群に描かれているのが「ラテン式」のスートです。

では、現在使われているフランス式のスートはどのように生まれたのでしょうか?
その経緯をざっくりと追ってみましょう。

アラブのカードが大本

トランプ自体の起源は諸説あり、古代エジプト起源説も出るくらい古いもののようです。現在のフランス式スートまで、形の変遷がわかりやすく辿れるのは、アラブのカードからでしょう。

当時のマムルーク朝で使われていたカードは、剣・ポロ用スティック・貨幣・カップが描かれていました。イスラム教では偶像崇拝が禁止のため、人物は描かれていません。

マムルーク朝のカード。
左から貨幣・ポロ用スティック・カップ・剣

欧州イタリア・スペインへ

アラブのカードがヨーロッパへと伝わり、イタリア・スペインにおいて「ラテン式」のスートに変化します。

カードの構成などはアラブのものとほぼ同じだったようですが、「ポロ用スティック」だけが棍棒(スペイン)や杖(イタリア)に置き換わりました。これは、ポロ競技が当時のヨーロッパでは馴染みが薄かったからのようです。こうしてラテン式のスートは剣・棍棒(杖)・貨幣・カップとなります。

ラテン式スート。画像はナポリで使われていたもの

ドイツで大幅なデザイン変更

トランプがヨーロッパで広まる中、ドイツにおいてさらにスートが置き換えられます。ドイツ式のスートは木の葉・ドングリ・鈴・心臓(ハート)です。

ドイツ式スート

また、スイス式というのもあり、これはドイツ式の亜種という感じです。

スイス式スート。左から盾・ドングリ・鈴・バラ

15世紀後半、フランス式スートが誕生

15世紀の後半に、現在日本でもよく見るフランス式のスートが誕生します。その直接の由来はドイツ式スートでした。

グーテンベルクが活版印刷で『四十二行聖書』を作成したのが1455年です。当時はまだ、多色印刷は登場していないころ。カードはステンシルの手彩色で作られていました。量産するには絵柄を簡略にした方が作業がしやすい。そのために、ドイツ式スートを極端に簡略化した結果生まれたのが、フランス式スートです。

下図上段のように、ドイツ式スートを塗りつぶすと、なんとなくフランス式スートに似ていますね。

上段:ドイツ式スートを単色で塗りつぶしたもの
下段:現在のフランス式スート

スートの変化まとめ

それでは、改めて各スートごとに形の変化を比べてみます。
アラブ→ラテン式→ドイツ式→フランス式の順です。

剣→剣→木の葉→スペード

スペードは、フランス式スート4種類の中では一番形の名残が分かりやすい感じがします。尖った形が一貫している。

ポロ用スティック→棍棒→ドングリ→クラブ

ドイツ式のドングリのシルエットは、塗りつぶすと三つ葉っぽく見えなくも無いかと。
「クラブ」という名称は棍棒(=クラブ)からきているようです。

貨幣→貨幣→鈴→ダイヤ

一番、形の飛躍が激しい感じがします。「貨幣」から考えると、ダイヤは意味的に通じるものがある気もしますが。

カップ→カップ→心臓(ハート)→ハート

ハートに関してはドイツ式の段階で、すでに完成していますね。

こうしてスートの変遷を辿ってみると、やはりラテン式→ドイツ式での飛躍が激しいですね。一気に牧歌的で、自然派な感じになっているというか。
その後の、フランス式での極端な簡略化は、結果的に大きな発明だったと思います。シンプルに洗練されたおかげで、一気に記号としての強度が上がったようです。
やはり、長く使われ続ける形というのは、簡潔で洗練されたものなのかもしれません。
以上、トランプのスートの由来についての説明でした。